preloader image

作品制作レポート

ついに会期を迎えた『奥能登国際芸術祭2023』。珠洲にはたくさんの人がお越しいただき、アートを楽しんでいます。作品制作レポートでは、さらに作品を楽しめるよう、作品準備の際のお話や作品への思いを紹介します。

鈴木泰人「音蔵庫」

2023年10月7日更新

今回お話を伺うのは、鈴木泰人さん。旧上黒丸小中学校の教室にて、2020~2021年 にかけて珠洲市内全域で行われた大蔵ざらえで集められた民具や教室に残されたモノと、珠洲の環境を素材にしたサウンド・インスタレーションです。作品タイトルは「音蔵庫」。モノに刻まれた記憶や物語を音で表現します。 

ふたつの教室で体感する、モノの音。

img

 

暗い教室には学校に残されたモノが並べられ、環境音が鳴り響きます。
暗い教室と明るい教室、2つの教室に並べられたモノの音を聞く鈴木さんの作品。暗い教室では、照明が音の正体を照らします。音が聞こえてモノが照らされるたび、 モノに呼ばれているような気持ちになります。もう片方の明るい教室は、まるで教室で着席している児童たちのようにモノが整列して並べられています。音の正体のほとんどは教室の中にいるそうです。見ている人はどれが音を鳴らしているのか、 モノを探しながら鑑賞します。  

「僕の作品はモノが並べられていることで完成品じゃなくて、観ている人が自分の中で音とここにあるモノっていうのをリンクさせて、心の中で音を並べてもらう作品。例えば、レジの音が鳴っても、レジの音だと認識しなければ、なかなかレジを見つけられないんです。レジの音だ!と思い出して、初めてレジを見つけることができる。見た人は、目の前のモノを見て、自分の中にある記憶をくっつけていくんです。そのモノに触れたり使ったりした記憶があるから結びつくんです。」 

明るい教室には民具たちが並べられています。これはどんな音をしていたでしょうか。

img

  

モノを音で保管する 鈴木さんの大蔵ざらえ

img

スズ・シアター・ミュージアムで展示されているOBI作品「ドリフターズ」。

鈴木さんが今回、音を主役にした作品を作ったきっかけは、『奥能登国際芸術祭2020+』の「珠洲の大蔵ざらえ」プロジェクトでした。鈴木さんはOBIとして大蔵ざらえプロジェクトに参加し、作品を制作しました。

「珠洲の大蔵ざらえ」とは、高齢化などが原因で過疎化が進む珠洲の空き家に眠ったままの、代々残されていた民具や地域の財産など「地域の宝」を市内一円から集めて整理する地域の一大プロジェクトでした。集められた道具たちは、専門家が 調査、アーティストが作品へと「活用」し、モノを主役とした劇場型民俗ミュージ アムを開設しました。それが今回の芸術祭でも公開されるスズ・シアター・ミュー ジアムです。 

「大蔵ざらえっていうのは、モノを保管する考え方なんですよ。蔵からモノを集め て、専門家がそれを保管する。そしてそれを作家がアートに活用する流れを作ろうっていうのが大蔵ざらえで、僕も共感したプロジェクトです。ただ、モノだけじゃなくて、モノにまつわる環境はどうなっているのかな?と思ったときに、そこに必ず音があって、音の保管も大事じゃないかと思いました。例えば、ギィっと軋む音を聞いて『これはおばあちゃんの家にあったアイロン台の音だ』と思い出せるように、音というのは記憶に深く残ります。音を聞いてもらうことで、聞いた人の記憶の中にモノを保管してもらう。珠洲の音を持って帰ってもらうということが、今回の作品の目的です」

img

モノには元々あった場所が分かるタグが残っている。

地域に踏み込んだ鈴木さんの音集め

img

作品に使用されている音は、鈴木さんが実際に珠洲を回って録音しています。珠洲に2ヶ月滞在し、100以上の音を録音したそうです。時には地元の方の家にお邪魔して廊下を歩く音を録音しました。たまたま挨拶した方に「これ持ってきな!」と ライトを譲ってもらったこともあるのだとか。そんな地元に入り込んで制作を進めていた鈴木さん。住民と話をして、そこから発想された音がたくさんあるそうで す。

「例えば、ひぐらしの音を使っていますが、それはただ僕が思いついたんじゃない んです。地元の方と話をしているときに、『朝はひぐらしの声で起きるんだよ』と いう話になって、そんなうるさいんですか?と僕が聞くと、『じゃあ、朝の4時にこ こに来なさい。』って。
だから録音機材を持って、朝から待っていたら、ひぐらしが後ろから前に向かって ダーって、輪唱するように鳴いたんです。録り終わったあとに、すごいですね!っ て言ったら、『いつもはこんなもんじゃないよ』って(笑)どの音を録音するのかも、そんな風に理由がひとつひとつあって、僕が2ヶ月滞在した珠洲の一つの物語みたいなものです。」  

『奥能登国際芸術祭2017』から珠洲と関わりがある鈴木さんですが、今回も協力的な珠洲の方たちにたくさん助けられました。

「珠洲の人は録音やインタビューにとても協力してくれました。『今日録りに来るか?』って言ってくれる人もいて、とてもやりやすかったです。あと現代アートっ ていうと、「わからない」と敬遠されることも多いのですが、珠洲の人は柔軟です。インタビューした時に、『無音の音ってありますか?』っていうとても抽象的なことを地元の人に聞いたんですよ。普通だったら、そんなこと聞かれても困ると思うん です。だけどちゃんと考えて『あるね』と応えてくれるんです。」 

img


珠洲の人に内在する風車の音

鈴木さんはこれまで照明での表現や絵画が中心でした。しかし、珠洲でとある気になる音に出会い、それから音の研究を進め、 今回の作品に繋がっているそうです。その気になる音とは、珠洲でひときわ目をひく巨大な風車でした。

「大きな風車がとても気になりました。特撮映画に出てきそうですよね。 そんな風車から鳴るビュイーーンという低い重低音が、常にこの珠洲には響いています。作品内の壁の外灯は、風車の力でつく珠洲の電気を表現しています。風車の力があって、電気がつき、生活がある。そして、この教室からはその風車を見ること ができるんです。近くに行くと聞こえるんですけど、ここに住む人たちには内在されている音なんです。」

img


その日限りの特別パフォーマンス

img


10月8日(日)、9日(祝月)には、「ほどける、オト・モノ」というパフォーマン スイベントを開催します。今回の作品の音の調整にも協力したサウンドデザイナーの伊藤豊さんとの共同パフォーマンスです。どんなイベントになるのでしょうか。

「教室に展示している作品は、物音が中心ですが、実際は物音の周りには人がいるので、環境音や声が入るんです。パフォーマンスイベントでは、教室の作品に収まりきれなかった人の声やリズムというものも扱おうと思ってます。僕は音集めの一環で、宝立の祭にも参加したんです。キリコを地元の方と一緒に担がせてもらい ながら、音を録りました。キリコと一緒に海にも入って海の中の松明の周りを回るんですが、すごい熱量でしたよ。」

鈴木さんの作品は旧上黒丸小中学校の1階の教室でご覧いただけます。会場で実際に耳で感じないと体験できない鈴木さんの作品。いつかどこかで聞いたことがある音は、普段は思い出さない記憶の扉をノックしてくれます。自分の記憶、そして珠洲のモノ・コトの記憶を重ねて保管してください。
また、ライブパフォーマンスではクラフト・レコードと言うメディアに作品音源とそれを素材にした曲を収録して限定販売いたしますので、楽しみにして頂ければと思います。 

▼パフォーマンスイベント詳細
「ほどける、オト・モノ」 
出演・企画:鈴木 泰人 
出演・サウンドデザイン:伊藤 豊(イトウ音楽社) 
10/8[日]11:30~12:00/16:30~17:00 
10/9[月祝]11:30~12:00 
会場:旧上黒丸小中学校 1階教室    
   https://goo.gl/maps/UYA5JKaUjPCzBKvz6 
予約:不要 
料金:無料

文:戸村華恵


文:戸村華恵 / 写真:西海一紗