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ディレクター便り vol.22

文:北川フラム(総合ディレクター)
2023年10月11日更新

51日間の会期を終えた『奥能登国際芸術祭2023』。14の国と地域から集まったアーティストたちが、珠洲にインスピレーションを受けた作品を展開し、たくさんの方々に珠洲の自然、そしてアートを楽しんでいただきました。ディレクター便りでは、芸術祭、そしてアート作品について北川フラム総合ディレクターがあれこれ綴ります。

芸術祭閉幕までの二日間、小雨降り凍えるほどの寒さのなか、灰色に烟る奥能登珠洲で過ごしました。5月5日の震度6強の地震が起きてから三週間の延期はするものの開催を決定して9月23日から11月12日までの51日間、無事開催できたことを喜びたい。

はじめは危惧していた地元の皆さんも後半は来圏者の発する好意的な評判もあって、かなりの人たちが回っていたことで、次回に向けての前向きな発言が多くなりました。関係者、スタッフ、サポーター、アーティストの皆さん、ありがとうございます。

思えば、顧問の平蔵県議会議員、副実行委員長の刀祢商工会議所会頭(当時商工会議所常議員)、泉谷信七区長回連合会長(当時商工会議所副会頭)を始めとする皆さんが要請に来られたのが9年前でした。以来、私は美術の力を媒体にした地域の元気づくりの技術者として関わらせていただきました。美術による地域づくりって何なの?最涯って打ち出して大丈夫か?から始まって台風で終わった第1回展、コロナ・パンデミックという国の移動方針すら揺れるなかで一年延期した第二回展、二年間の準備しかないなか地震に見舞われた第三回展。泉谷満寿裕市長の強いリーダーシップで高い評価を受け、この厳しい国際政治と日本の社会的停滞のなかで気を吐き、美術を中心とした芸術祭による地域再生の希望の灯を繋いでくださった皆さんに再々熱烈な感謝と拍手をしたいです。ありがとうございました。

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閉幕式では飯田高校生3人が「うつつ・ふる・すず」挿入歌「うみねこの唄」を歌い、映像で会期を振り返った

ラポルトすずで行われた閉幕式で発表された今回の結果は以下のとおりです。

・総来場者 51,136人
・パフォーミングアーツ鑑賞者 1,770人
・受入ツアー 86本 2,200人超
・受入視察 160人超
・すずアートバスの利用者 2,134人(191回運行)
・常設作品となる2023作品 9作品
→No.2-2 大蔵ざらえ収蔵庫(スズ・シアター・ミュージアム分館)/ No.5 牛嶋均「松雲海風艀雲」/ No.7 奥村浩之「風と波」/ No.10 アレクサンドル・ポノマリョフ「TENGAI」/ No.11 リチャードディーコン「Infinity 41.42.43」/ No.19 ラグジュアリー・ロジコ「家のささやき」/ No.30 N.S.ハーシャ「なぜここにいるのだろう」/ No.47 小山真徳「ボトルシップ」
・スズ・シアター・ミュージアムの閉幕後の運営について
→12月8日(金)から潮騒レストランと共に再開。(詳しい情報はニュース記事よりご確認ください)

また、サポーターには約400人の方々が参加してくださいました。

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閉幕式後の集合写真

 新作では坂茂の「潮騒レストラン」の建物は見事なものでした。牛島均の遊具が一部出来てスズ・シアター・ミュージアムの雰囲気もよくなりました。田中泯さんと常盤貴子さんの公演は凄く、近くにできた分館を含めて新しいタイプの博物館がどうなっていくのか、これからが正念場です。 外浦のファイグ・アフメッド、奥村浩之、アナ・ラウラ・アラエズは岬巡りの楽しみを与えてくれました。ポノマリョフは現代世界のつながりを考えさせてくれるし、ディーコンは今後の彫刻に示唆を与えてくれました。 弓指寛治の木ノ浦の海沿いの遊歩道を巡る「プレイス・ビヨンド」は、かつて満蒙開拓団に少年時に参加し、やがて飛行機整備士として南方に行って敗戦を迎えた南方寶作さんの日記をもとにその文章、弓指さんの絵画によってめぐる、今までにないサイトスペシフィックな作品で、その構想、技量ともに刮目すべきものでした。

梅田哲也と植松奎二、さわひらき、ソル・カレロ、SIDE CORE、原嶋亮輔の作品はそれぞれの作法は異なりながらも、建築の内部空間、外界との折り合いなど、主体と環境とのかかわりが面白く傑作だと思いました。また弓指さんの飯田町でのテーブルランナーと、のらもじ発見プロジェクトと栗田宏一さんの能登半島の表土展示は新しい世界を切り拓いたと思います。飯田町の市街地のこれからの展開も楽しみです。

他では台湾のラグジュアリー・ロジコが震災で作品制作が困難ななかで黒瓦の美しさというコンセプトを変えずに根本からの設計変更をして対処してくれたのには感動しました。田中信行の漆の作品は島崎家のなかで存在感があったし、佐藤悠はぶっ通して「おはなしの駅」をやってくれましたが、これは名人芸というものでした。吉野央子とシリン・アベディニラッドとマリア・フェルナンダ・カルドーゾも空間のなかで丁寧な仕事をしてくれました。北山善夫とシュー・ジェンの作品もそれぞれの人世のなかでの必然性のある作品で好感をもちました。上黒丸の泰然+きみきみよ、嘉春佳、鈴木泰人の三作家の展示も楽しいものでした。

次の準備が始まります。皆さん奥能登国際芸術祭にご期待ください。

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地震に負けない珠洲、元気なスズに!
豊穣の里山、里海にアートと食 14の国・地域からアーティストが集結  


北川フラム