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ディレクター便り vol.20

文:北川フラム(総合ディレクター)
2023年9月26日更新

9月23日から開幕した『奥能登国際芸術祭2023』。14の国と地域から集まったアーティストたちが、珠洲にインスピレーションを受けた作品を展開しています。ディレクター便り第二幕では、今年展開されている作品について、北川フラム総合ディレクターがあれこれ綴ります。

飯田の商店街に栗田宏一の「能登はやさしや土までも」、弓指寛治の「物語るテーブルランナーin珠洲2」を挟んで5ヶ所に下浜臨太郎、西村斉輝、若岡伸也による「のらもじ発見プロジェクト」のハンコ押し場があります。作品を見て巡っても半時間ほど、作品もハンコ押しも楽しいのでおすすめです。これは飯田の町にある商店の看板の文字が面白いことに眼をつけたデザイナーが、実際の看板文字から50文字のレタリングをおこし、5つの店舗を巡りながらそのレタリングで葉書にそれぞれ異なった意味のハンコを押して楽しむという優れものです。 

弓指寛治の木ノ浦野営場から椿の木が生い茂る自然歩道を文字の立て看板と絵画を道標にして歩く「プレイス・ビヨンド」は、ゆるやかな坂の登り降り、突然ひらける弧にさへ見える外浦のゆったりした海を感じながらの五感に迫ってくる体験でした。

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弓指寛治「プレイス・ビヨンド」が展示されている自然遊歩道

1922年、珠洲群西海村に生まれた南方寳作さんが生前に遺した、たんたんと事実を述べる伝記を底本としてつくられた文と絵画による道歩き体験作品。1986年生まれのアーチスト(弓指寛治)が、南方氏が歩いたであろう故郷珠洲の岬の山道に、満州事変あたりの日本の田舎から満蒙開拓団の一員として外地に赴き、真珠湾開戦近くに帰郷し、幼い頃からの夢であった飛行機乗りを目指し、搭乗発動機整備員として馬公(台湾)、オランダ領ボルネオで参戦し、終戦間際に奇跡的に再度帰国し、特攻準備に組み入れられる約6年間、それこそ今の私から見れば波瀾万丈のあれやこれやがたんたんと約100枚の立て看板によって語られるのです。

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弓指寛治「プレイス・ビヨンド」

約50枚のアクリル絵画が、大画面、中画面、変形画面によって樹木に立て掛けられたり、木から吊るされたりして迫ってくる。またその絵が巧い。こんな体験はめったにありません。あっという間の一時間、ぜひ歩いてみて下さい。記号化し、断片化する記号社会に生きている私たちに、100年前の田舎から出た少年の素直さと、時代の大波がいやおうなくかぶってるのです。

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弓指寛治「プレイス・ビヨンド」

また終盤、道が三つに分かれるところが1945年のポツダム宣言受諾の場で、そこから南方氏の辿った事実と、南方氏がかつて4年間属していた満蒙開拓団のその後の悲惨な事実(アーチストが調べたもの)で、大きな岐路になっていますが、まずは短い満蒙開拓団の方へ行って見てください。 そこにはそうでなかった道があり得たのか、あるいは無かったのか、が、疑問符として私たちに投げられています。美術の可能性を教えてくれる力作。傑作です。 

地震に負けない珠洲、元気なスズに!
豊穣の里山、里海にアートと食 14の国・地域からアーティストが集結  


北川フラム