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ディレクター便り vol.19

文:北川フラム(総合ディレクター)
2023年9月26日更新

9月23日から開幕した『奥能登国際芸術祭2023』。14の国と地域から集まったアーティストたちが、珠洲にインスピレーションを受けた作品を展開しています。ディレクター便り第二幕では、今年展開されている作品について、北川フラム総合ディレクターがあれこれ綴ります。

9月23日、奥能登国際芸術祭が開幕しました。5月5日の震度6強の地震で、予定より3週間延ばしてのスタートです。私は22、23日の2日間、秋晴れの好天下、ツアーでガイドをし、22日はスズ・シアター・ミュージアムでの田中泯さんの「場踊り− 歩む」と、隣接する坂茂さん設計の「潮騒レストラン」のオープニング、レセプション、23日のラポルトすずでの開会式に参加しました。

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「潮騒レストラン」オープニングセレモニーの様子

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「潮騒レストラン」レセプションパーティーの様子

スズ・シアター・ミュージアムの壁、床、空間全体にひしめく、民具、漁網等の漁撈具、耕作道具、昭和の電化製品、生活用具、儀礼で使われる備品、キリコ等の祭具などが、ひとつひとつ呼吸するように点滅する中、暗がりの坂になっている橋掛かりを、ゆっくり、伸び縮みしながら降りつ昇りつするボロ着を纏った歳を経たしなやかなしっかりした肉体の漁師。田中泯の肉体は遙か半島から、出雲を経て能登に留まった大陸系の大柄な骨格を思わせます。

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奥能登国際芸術祭2023 田中泯「場踊り–歩む」  (撮影:平間至)

流れてくる音楽は聞いたことはあるが僕の知らない歌謡曲でテンポが良く熱い音楽で、繰り返される度に、昭和という時代をはさんだ奥能登、田中泯の一代記のように感じられてくるのです。平場では樽や砂取り舟に入り、漕ぎ、海辺の石、砂を手で掬うのですが(私には骨のように見えた)まさに奥能登珠洲の百年続いた家仕舞い・大蔵ざらえで出てきたモノたちが、それぞれにまつわった家の、何代もの家族の、祖父母や息子や嫁や、姑や少女や青年や赤ん坊、一人ひとりの時間がからみあっているようで、後半はこれまた厚い熱い音楽が流れていました。

最後に田中泯さんの挨拶にあったように、時空間に田中泯が感応しているようでした。まさにサイトスペシフイック。ここでは人やモノが場を媒介にして時空間と合わさっている。《うたげ》の予感があったのです。 

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奥能登国際芸術祭2023 田中泯「場踊り–歩む」 (撮影:平間至)

梅田哲也やさわひらき、旧作の山本基や塩田千春、植松奎二、田中信行、ソル・カレロ、河口龍夫、吉野央子、シリン・アベディニラッド、北山善夫、マリア・フェルナンダ・カルドーゾ、原嶋亮輔、中島伽耶子、栗田宏一、泰然+きみきみよ、嘉春佳、鈴木泰人の室内作品も名作、力作、巧いと言われるような作品だったと思います。

屋外作品では、ファイグ・アフメッド、奥村浩之、アナ・ラウラ・アラエズ、アレクサンドル・ポノマリョフ、リチャード・ディーコン、ラグジュアリー・ロジコ、トビアス・レーベルガー、大岩オスカール、ラックス・メディア・コレクティブ、N.S.ハーシャ、シュー・ジェン、SIDE COREそれぞれが、力作、気持ちがよい、よく考えられている、面白いなど魅力的でした。 

弓指寛治、佐藤悠、のらもじ発見プロジェクトの不思議な作品については次回に書こうと思います。いずれにせよ評判の良いスタートが切れました。 

地震に負けない珠洲、元気なスズに!
豊穣の里山、里海にアートと食 14の国・地域からアーティストが集結  


北川フラム