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ディレクター便り vol.18

文:北川フラム(総合ディレクター)
2023年9月21日更新

9月23日からの51日間、珠洲市内を舞台に『奥能登国際芸術祭2023』が開幕します。それにあわせて、「ディレクター便り」の連載がスタート。総合ディレクター・北川フラムが「珠洲のいま」について綴ります。

芸術祭開幕までいよいよあとわずか。9月15日、作品のチェックに行ってきました。21日に最後のチェックに参ります。感心したのは養蚕飼育所跡の作業場を使った梅田哲也の「遠のく」。

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梅田哲也「遠のく」を鑑賞する北川フラム総合ディレクター

2ヶ月半前には掃除の最中で燕が巣作りを始めていて、どうするのだろう?と楽しみにしていたものです。<まぶし>という蚕が繭になって入る格子状の板が全体に使われ全体のベースを整えていますが、各所に小さなガラス球、扇風機や道具類が配置され、それぞれが微かに動いています。扇風機につけられた羽根が一回転する間に小さなフィラメント付きの水玉についた鈴がチリンと鳴る、というふうに。不思議な音もささやかに、それは蚕が桑の葉を食べる音だったりして。まぶしに残っている繭の上部に小さな針穴のようなものが開いていて、何かな?と思うとここから蚕が逃げ出したものだそうで、元気な蚕は空へ飛び出してしまうそうです。外にも生き残った桑の木がしっかりと生えている!燕の巣の跡もあるし…。

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「遠のく」の作品の一部である<まぶし>

この作業所を貸して下さった大家さんの橋本さんの建屋の半分で仕事をしている家具職人の辻口さんらとの出会いや、近隣の人たちとの交流が、この静謐な空間に漂ってもいるのです。かつての養蚕業の跡地にそこで生きた人たちの生活や周囲の世界が梅田さんの美術によって紡ぎだされてうたげの予感がする、という格別な作品でした。 

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「遠のく」の作品の一部

この他、外浦の海岸にある奥村浩之さんの大理石を計画的に割って立てる「風と波」や、イギリスのリチャード・ディーコンの海と山と集落と交感する、シンプルに見えてデリケートなつくりの「Infinity 41.42.43」なども気持ちのよいものでしたし、台湾からやってきたラグジュアリー・ロジコの「家のささやき」もほぼ出来上がり、近くにある中国の徐震®(シュー・ジェン)の「運動場」も仕上がっていました。旧上黒丸小中学校で展開する泰然+きみきみよの「あかりのありか《のと》」、鈴木泰人の「音蔵庫」、嘉春佳の「祈りのかたち」の作品も地元の人たちの協力を得て、しっかりと作られていたことを報告しておきます。他の作品も楽しみです。 

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リチャード・ディーコン「Infinity 41.42.43」

この日の夕、羽田空港は閉鎖され、私は金沢までバスで行き、最終の新幹線で帰ってきましたが、作品の余韻で、長旅も気になりません。全国に千人いるバイクのライダーの皆さんが1泊2日で巡るサンライズ・サンセット・ツーリングで応援に来られたり、各地での祭りに人が以前より多く来られたり、本殿が傾いた三崎町の本(ホン)の白山神社のご神体が仮宮に安置されたりの復興のニュースも続いています。

 開幕までのディレクター報告はこれで終わります。皆さん、ありがとうございました。

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北川フラム