最涯珠洲を語る

#08 湯宿さか本 主人 坂本新一郎

#08 湯宿さか本 主人 坂本新一郎

2017.09.03

坂本 新一郎 / Shinichiro Sakamoto

坂本 新一郎 / Shinichiro Sakamoto

坂本 新一郎 / Shinichiro Sakamoto
珠洲市上戸で「湯宿さか本」を営む。長い年月をかけて宿の一つひとつを、土地の自然に逆らわないやり方でつくり続けている。「いたらない、つくせない宿」を慕い、訪れる常連客も多い。地元ではそば打ちの名人としても知られる。

「ここが日本なんや」って。
奈良でもない京都でもない
能登に残る日本の原風景を
どれだけ意識して残していけるか、
大事なんは、そこやと思う。

その土地にはその土地の持つ役割がある

この土地(湯宿さか本)もすごい滝があるわけでもきれいな川が横を流れているわけでもないけど、安い土地を分けてもらいながらここで出来ること、年間通してお客さんに来てもらえることを考えてずっとやってきた。うちは、宿屋でも結構変わったやり方をやっている宿屋で。合う合わないがとてもはっきりしてる。なんでお出迎えしないのか、とか、 お客さんともめ事になることも時にあって。でも、無理しない。環境にも無理しない。メニューもなくて、その日仕入れる魚で全体のメニューが決まったり。その日の材料でしか作らないから、苦しい時もある。でもそこで無理せず自分たちはあるもので頑張る。

この土地にはこの土地の持つ役割があって、そこでギブ&テイクができるかどうかがポイント。迷いながら手探ってやっていく。それがうまくいけば、お客さんはここが自分の居場所なんだと思ってくれて。そこでまた来たいって思ってくれるのかどうか、そういう仕事ができるかどうかだと思う。みんな表の見えるところで考えるけど、本当は何を求められているのだろうって、どうなんだろうどうなんだろうってやりながら宿屋をやっていくのが自分の仕事だと思う。

能登にはリラックスできる居場所としての価値が
本来あるんだと思ってる。

常連さんは約6割です。新規のお客さんが少ない。はっきり二極化して好き嫌いが分かれます。二度と来んっていう人と、これでもええわってまた来てくれる人と。
うち、宿屋やないんやってわかった。別宅。おれら別宅の管理人。そう思ったらサービスのいろんなこととか整理ができる。常連さんも何十年って方もいらっしゃって、みんな自分の家のように勝手にやってくれていて。うちでできることはもちろん精一杯やるんやけど、でも、基本は別宅なんやと。居場所になれる。リラックスできる。能登には、そういうニーズを満たせるものが本来あるんだと思ってる。この地ができる役割みたいなものをちゃんと聞いてくことが重要。先々考えると、そうしたやり方をきちんと考えることは重要だと思う。小さな宿であっても世界観を持って、一人勝ちとかではなく。日本が全体の中でできる役割を考えながらやっていかないと、勘違いしてしまいます。

気持ち良く暮らしていきながら 日本の原風景みたいなものを残していく。

海外のお客さんをどう呼ぶか、ということよりも前に、日本の原風景を見てもらえるようなことをしているかどうか。「あ、ここが日本なんや」京都とか奈良ではなく。ここが原風景なんだ!日本なんだ!ということをどれだけ意識して残していけるんか、というのが大事だと思う。
能登は、原風景が残っている場所であり、まだまだ可能性がある場所。原風景の中でも川って大事。うちの敷地に流れる川にU字構を入れたいって言われたんだけど、U字構を入れると川がバーって流れて川が干からびてしまう。川は自然な流れなら、たまり水ができて生き物はそこで生き延びる。川の役割は、空気と交わりながら浄化を助けてくれる機能がある。川はいずれ海につながり、自分らはそこの魚を獲って食べているという意味では、その本来の浄化のあり方を守っていくのはとても重要。最近は、元に戻して、石を戻したりってするように変わってきてる。住んでる人の負担にならず、気持ち良く暮らしていきながら、原風景みたいなものが人を呼んでくる手がかりみたいなものにならないかと思っとる。

日本の中で珠洲の役割を考えながら 日本全体の良きことを考える。

能登半島の先っちょの、この場所だけが豊かになるっていう考え方でなく、日本の中で珠洲っていう場所はどんな役割を果たせるのかという大きな視点に立って考えていく必要があるし、それで自分たちだけがよくなるんじゃなく、隣の町にもその隣の町にも、うまくいく流れが広がっていくことが大事だと思う。共感っていうのが広がっていくのが大切だと思う。芸術祭も珠洲だけの話じゃなくて、珠洲の隣のそのまた隣の町にとっても、共感を生みながら、おれらもやらしてくれっていう流れになっていかないと。そのためには、地域エゴとかではない、全体の良きことを考える思考が重要になるんだと思う。

特産品とかじゃなく、できることを無理なくやるのがいい。

珠洲を代表する食材って何?とか、そういうことを考えるよりも、そこにあるもの、そこでできることを考えてやっていきたい。それは派手な看板とかにはならんけど、まわりにあるもの採れたもので無理なくやっていく。
珠洲につくってみたいものがある。一つは朝日を見るためだけのお茶飲む場所、カフェ。 もう一つは夕陽を見るためだけのカフェ。一つは海沿いに、一つは雑木林の中に。たとえば、暗いうちから朝日見るためにそこに行き、朝日が出るまでお茶飲んだりして、朝日が出たら自分の宿に帰っていく、ただそれだけのとこ。極めてシンプルで贅沢な。そんなものを建てるのが夢なんだけどね。そんなの絶対採算とれないと思うけど。
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