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【北川フラム】奥能登美術考⑧ 10月5日

レポート 2017.10.05
【北川フラム】奥能登美術考⑧ 10月5日

奥能登国際芸術祭の観客の特徴は、皆さんの殆どが作品を目指しながら、異なったそれぞれの場の生活、風土を楽しんでおられるということです。
また半数近くの人が珠洲市及び近隣からの方ですが、作品に導かれて行った先々で「こんな場所があったのか?」、「初めて来たよ」と言っておられる。まさに「灯台下暗し」なのです。

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僕はこの間、東京ビッグサイトで開催された観光庁主催の「ツーリズムEXPOジャパン」と台湾で開かれた交流部観光局主催の「持続可能な観光フォーラム」で基調講演をしてきたのですが、共通のテーマは①外国からの観光客が増えている、②旅行のスタイルが変わってきた(旧来の名所旧跡目的の団体旅行が減ってきた)、③もっとリピーターを増やす旅行を考えたい、というものです。
僕が依頼されたというのも、そのことと関係があると思います。
実際、僕がこの間立ち話をした多くの人が、妻有(大地の芸術祭)、瀬戸内(瀬戸内国際芸術祭)、大町(北アルプス国際芸術祭)の体験者でした。まさに「美術に惹かれて地域巡り」なのです。
地球4周分16万キロ、日本中を歩いた宮本常一さんの「忘れられた日本人」以来、効率化、市場第一主義、グローバル経済の悪弊が目を覆うようになった。今ようやく、地域は都市の発展の上の希少な場所としてだけではなく、地域を支え、人間の五感、生理に寄り添った生きる場所として、多くの人によって大切な場所、交流し、参加し、泊まり、住む場所になってきたように思えるのです。現代美術関係者の一部は、田舎に入ると作品が甘くなると言って、先端的であるために、爺さまや婆さまの世界に受け入れられるのを拒否しますが、大間違い。彼らの美術は、地域環境の危機と金融資本主義の崩壊のなかで、そのもっとも前線である地域で格闘する勇気を失っているのではないか、と思ってしまいます。アーティストは地域、行政、美術を巡る先入観との闘いを引き受けはじめたのだとも言えるのです。そしてここでの美術は同時に、地域の連帯、地域と都市の交換の媒介になり始めているのです。

私のブログも終盤に近づいてきました。この芸術祭の閉幕は衆議院総選挙の投票日になってしまいました。嗚呼!

この芸術祭は岬めぐりという地形堪能とともに、廃線となったのと鉄道というふたつの道を軸に構成されています。最後にそれを。
鉄道プロジェクトは鵜飼駅のアデル・アブデスメッド(アルジェリア/フランス)から始まって、ラックス・メディア・コレクティブ(インド)の上戸駅、河口達夫の飯田駅、ギムホンソック(韓国)の日韓の塩や本を売っているキオスクがある珠洲駅、トビアス・レーベルガ-(ドイツ)とエコ・ヌグロホ(インドネシア)が関わっている最終地点の蛸島駅で展開されています。昨日、私はそのうち夜も見られる夜三部作を見てまわりました。

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アデルは鵜飼駅に列車を運び込み、その中に巨大な円筒の灯をもちこんで、それはそれは強烈な存在感でした。
ラックスの上戸駅は幹線を車で走りながらも光っていて「ほっ」とするものですが、もともとある駅舎の上にステンレスの骨格を少し角度を変えて乗せて光っているだけです。が、そのおぼろげな美しさはなんとも言えない。なにか時間が重なっているあやしささえあるのです。

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河口龍夫さんの「小さい忘れもの美術館」は駅舎に忘れ物のポジ・ネガ、ホームに忘れられていた傘が立てられていて、運び込まれた客車は黒板になっていて、人々が記憶を書くようになっていて、とてもしっくりくる秀作でした(こちらは日中のみの作品)。

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トビアスの作品は道路によって切られた線路にカラフルなゲートのような構造物があり、そこから遥か奥にあるのと鉄道の終着点にある看板を双眼鏡で覗くというものです。夜は夜で鮮やかなものですが、そこから蛸島駅までの線路を歩くのは滅多にない経験で、日中には皆歩き出していきます。

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ここで一言、車はガソリンスタンド近くの駐車場に置いて、その裏にある台湾のウー・ジーツォンとチェン・シューチャンのユニットが面白い影絵的な作品をつくった、漁網用工場を見てから、トビアスに寄って、蛸島駅に行くと良いです。実に楽しい散歩が充実した作品を見ながらできるおすすめのコースです。

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さて、蛸島駅、ここにはエコ・ヌグロホのペンティングが描かれているのですが、おすすめは、戦中日本が占領下のインドネシアに鉄道をつくったときのドキュメンタリーです。鉄道がもっていた意味がよく分かります。
蛸島駅の端にあるトビアスの「Something Else is Possible」は、作家が託した希望です。
この鉄道が、もっと伸びて日本海につながり、ユーラシア大陸とつながるイメージが彼にあるのではないでしょうか。

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この日、僕はひびのこづえさんの「スズズカ」で引間文佳さんのダンスを観ました。海中に浮かんでいる8体の海の衣装を踊りながら身にまとっていく、その踊りと美しい身体は圧倒的でした。

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文:総合ディレクター北川フラム
写真:中乃波木(一部スタッフ撮影)

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