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【北川フラム】奥能登美術考① 9月3日 ―大谷、日置地区―

レポート 2017.09.05
【北川フラム】奥能登美術考① 9月3日 ―大谷、日置地区―

 芸術祭前日、ツアーで作品を見てまわり、「さいはてのキャバレー」でのレセプション。潰されていく店を全国的な貸しホールにしようという挑戦ですが、雰囲気はよく、若山町の珠洲御神事太鼓と飯田町のキリコも勇ましく港のにぎやかさは夢幻のようだったとは地元の声。EAT & ART TAROさんの演出でした。

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 これから何回か、奥能登国際芸術祭の作品の紹介をしながら、土地(地域)と美術について考えていきます。

 塩田千春さん。「時を運ぶ船」(大谷地区・旧清水保育所)。外浦の海が球形に拡がる見晴らしのよい場所にあり、「私の名前との深いつながりを感ずる」と、珠洲リサーチのあと一発で決めた場所です。最後の仕上げには、体調不良で来られませんでしたが、それだけに心こもった指示とスタッフの頑張りで気持ちの良い空間ができました。塩田(えんでん)資料も適切でした。

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 村尾かずこさんの「サザエハウス」は、この地域名産の小ぶりなサザエで地元住民と手間暇かけた思いが伝わります。ハウスの奥にひそやかに置かれた小さいサザエ、村尾さんが作りたいサザエハウスのようにも思えます。

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 深澤孝史の「神話の続き」は、海道から降りた、高潮の時には2メートル近く水位が上がる場所につくられた現代の漂流物でつくられた白い鳥居です。背後の崖には漂流してきた破船の部材でつくられた祠がいくつかあり、この地域に伝わる、古くからの人の漂着、来訪、漂流物に対する敬意のあらわれである「漂着神」信仰への深い考えが伝わってきます。力作というしかありません。

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 思いと言えば、鴻池朋子の「陸にあがる」は、まさにその結実です。秋田の山奥で山の生きものたちとの薄明のつながりをもった作家は、このさいはての地のそのまた突先のシャク崎と、そこから波ひとつ隔てた柄島を私たちに見せようと、ここに作品をつくったとしか思えない場所を選んだのです。危険ですから作品のそばまでは行かないで下さい。

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 キジマ真紀(旧日置小学校)は、地域のお母さんたちの星の瞬間(人世の苦労輝き)を刺繍でつくった作品が校舎の中庭にサークル状に展示していましたが、なかなかのもので、地域のヒストリーになっていました。

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 さわひらき(旧日置公民館)の作品は圧倒的でした。地域についての理解は、地域をベースにする場合の出発ですが、彼の場合は昔蛸島に住んでいた爺さまの話を掘り下げることによって、地域と家族史と個人の思想が作品に消化していった強さが伝わってくるのでした。

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もちろん、これだけでなく、作品をその場で成立させるには、そこに関わる個人、多くの人、地域共同体の蓄積、行政の政治的世界を作家一人で受け止めなくてはならないのです。それは、美術界の話ではなく、美術成立の初心だと思います。地域を舞台とする美術はその意味で、現代社会の根底に相対し、現代社会の課題と切り結ぶものとなるのです。それ故にこそ、美術には多くの射程が広がっているのだと思いませんか?
 深澤さんの作品にも、そのことを作家が引き受けた強さがありました。

文:総合ディレクター北川フラム
写真:中乃波木 (一部スタッフ撮影)

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